eeldogの鰻犬堂日乗(mankendo diary)

日々のよしなきことどもをつづります。 クリックすると写真が大きくなります。

2017-06

昔のblogから-6  小壜の魔物

※2001年冬頃書いたもの。

ある旅の商人が、病をえてテントで伏せっていた。
「町まであと1日で着くというのに、まったく困ったものだ」。
男は火照った体を横たえたまま、枕もとにおいてある古ぼけた道具類を見た。
「売れる品物は、すぐ手元から離れるが、売れないものはずっと背負って運びつづけなくちゃならん。売れないものほどいつもそばにあるというのも皮肉なもんだ」
そう一人ごちながら、古びた黄銅色の小壜を手にした。
「この壜もいつから持っているのか忘れてしまった」
そういいながら壜をなでると、壜の中から煙とともに、そして少々照れくさそうに魔物が出てきた。
「こいつは驚いた。これがうわさに聞く小瓶の魔物か。三つのお願いでもかなえてくれるのだろうか」
「そういうわけにはいかぬぞ」と魔物が答えた。
「残念だが、願いが三つかなえられるのではない。人は自分の本当に欲しいものがなかなか分からないものだ。だから、三回言い直しができるというのが、本当のところだ。それにおれにできることは、『世の中にあるものをひとつだけなくす』ことができるだけだ。金銀財宝の類をお前に与えることはできない。悪く思うな」
「そうか、それならそれでもいい。おれもそれほど欲の皮が突っ張った人間ではない。それでは、今苦しくて仕方がないおれのこの病を、この世から消滅させてくれないか」
「よし分かった。頭が痛いなら、お前の頭を無くしてやろう。咳が止まらぬなら肺か喉かを取り去ってやろう。ところで、病自体を取り去るということになると、いまお前の病は、体の深くまで入り込んでいる。病を取り去るとお前自身も消えてしまうことになるぞ」
「なんとも融通の利かぬことだ。じゃあ、体のことはもういい。次はひとつ大きく出て、この世から「悪」というものをなくしてくれ」
「お前はなかなかいい奴らしいな。その望みをかなえてやりたいのはやまやまだが、そもそもこの世には悪というものはない。悪が存在するのではなくて、善が欠如しているのだ」
「魔物のくせに神学者めいたことをいうものだな。どうやら「この世のものをひとつだけなくす」といっても思うように行かぬようだ。お前がいてもどうにもならないことが分かった。これが三回目の願いだ、そもそもこの話はなかったことにしてくれ」
「よしわかった。では消えよう。だが、せっかく呼ばれて出てきたのだから、ひとつだけ教えてやろう。そこに青銅の古びた小壜があるだろう。あれにも魔物がひそんでおる。ひとつ試してみてはいかがかな」
そういって魔物は姿を消した。


「高熱にうかされて、夢でも見たのだろうか」。そういいながら、男は青銅の壜を手にとってなでてみた。
すると、また別の魔物が姿をあらわした。
「呼んでくれたのはお前か。感謝する。ところで、おれに出来ることは『世の中にないものをひとつだけあるようにする』ことができる」ということだ。さっきのやりとりで分かっていると思うが、言い直しは三回までじゃ」
「よし分かった。では、この病の特効薬をすぐに出してくれ」
「残念だが、その薬はすでにこの世に存在している。だから改めてうみだすことはできない」
「それでもいいから、その薬がどこに行けば手に入れられるか、教えてくれないか」
「それは、おれの手には余ることだ」
「なんだか、昔きいた話とはだいぶ様子が違うな。それにしても魔物とは名ばかりで、何の役にも立たぬことだ」
「まぁ、そう嘆くな。せっかくだからもう一度望みを言ってみたらどうだ」
「駄目だとは思うが、地上に平安を与えてくれ」
「まことに残念ながら、それもかつて存在していたので、無理だ。かつて、といっても、とてつもない昔のことではあるがな」

男はそこで考えた。魔物が二匹も現れたのに、何も得るものがないというのは、商人の名折れである。何も得られないにせよ、一泡吹かせてやれぬものか。
男は言った。
「その口ぶりからすると、どうやら、かつてこの世に存在したもののリストがあるらしいな。しかしそれは、人が見ることのできるようなものではないのだろうな。おれが欲しいのは、かつて存在したものが、いつ、どこにあったのかという一覧表を人間が読めるような形でほしいのだ。こういうものは、いまだかつてこの世の存在したことがないのではないかな。どうだろうか。だいぶ分厚いリストになりそうだがな」
男はそのリストを持つものは神か悪魔に違いないとも思ったが、魔物も似たようなものだと思い、黙って魔物の様子をみていた。
魔物は、しばらく考えていただが、次第に汗をかき始め、唸り声をあげて悩みだした。
「そうきたか。たしかにそのリストはいまだかつて人の目に見える形で存在したことはない。しかし、約束した以上、なんとかおれはそのリストを作らねばならん。しばらく時間がかかると思うが、無限に時間をかけては、そもそもお前がこの世からいなくなるだろう。それでは約束を履行したことにならぬ。しばらく時間をくれないか」。そういって魔物は姿を消した。

翌日になり、男の熱は下がった。もう一日静養して、男は町に向かって、また旅をはじめた。

魔物はいまだにあのリストを作ろうと、七転八倒しているのだろうか。男の目の前から消えた魔物はあれから現れない。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://eeldog.blog12.fc2.com/tb.php/195-17a4d861

人気ブログランキングへ

 | HOME | 

MONTHLY

CATEGORIES

     

RECENT ENTRIES

RECENT COMMENTS

RECENT TRACKBACKS

APPENDIX

鰻犬堂

鰻犬堂

FC2Ad